幕末 本と写真

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鵜殿鳩翁の「浪士姓名簿」

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東京は上野に明治10年から続く老舗古書店 文行堂の戦前昭和13年9月発行の目録第17号に「浪士姓名簿」が出品され当時35円で売られた。(ちなみに同目録に高橋是清の自筆演説草稿も載るがそちらは30円。公務員の初任給は75円くらいだったそうだ)

目録には背開きに同文書の表紙と裏表紙が写真版で載っている。
表紙には「浪士姓名簿」、裏表紙に「御取締役 鵜殿鳩翁」の署名がある。
文久3年の浪士組の徴募に応じた浪士たちの身上調書を取りまとめた名簿と考えられる。浪士組参加者の姓名、住まい、家族構成が記載されている。
浪士取締りに任じられた鵜殿鳩翁が所持し、実際の浪士組の人選や確定等に利用された大変重要な文書だろう。文行堂の目録では近藤勇の頁だけ翻刻されている。それから類推するに情報量の面からいっていまに残る各種の上京浪士組の姓名録をはるかに上回る内容が記されていただろう。
林栄太郎は「試衛館所在地の考察」(『新選組隊士遺聞』新人物往来社、昭和48)の中でこの「浪士姓名簿」を紹介し、「幻の浪士姓名簿」と名付けている。この「浪士姓名簿」は寺島栄一という人が入手を試みて文行堂に注文したのだが、時すでに遅し、すでに他人の手に渡ってしまっていた。文行堂からこの名簿を買った人物もその後の所在ももはや知ることができなくなっている。幻たる所以だ。
この「浪士姓名簿」がもし残っていて、その内容を確認することができたのなら、今日新選組に関するいくつかの疑問点がたちどころに判明するかもしれない。山南敬助や、いまホットな話題の芹沢鴨、平間重助等の出自の解明にどんなに益になったであろうか。
昭和13年、いったい誰がこの「浪士姓名簿」を入手したのだろう。そしてこの文書は戦争を経て失われてしまったのだろうか。たとえ原本は存在しなくてもせめて写本は残っていないのだろうか。
いつの日にかこの「浪士姓名簿」がどんな形であれ再発見されてほしい。切に願う。