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ぐろりあ・そさえて版でいこう!アメリカ彦蔵

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『開国逸史 アメリカ彦蔵自叙伝』(ぐろりあ・そさえて社、昭和7年)

 
アメリカ彦蔵の自叙伝は最初英文で書かれ『 Narrative』(ナラティブ)と題され丸善から明治25〜28年に上下2巻で出版された。邦訳は、先ずは上巻の方を土方久徴が訳して『漂流異譚開国之滴』として出版した。残る下巻はヒコ自らの委嘱で藤島長蔵が翻訳を進めていたが、ヒコが明治30年に亡くなるとその訳稿は出版されずヒコの未亡人のもとに残された。これを惜しんだのが入澤達吉で、話を吉野作造尾佐竹猛石井研堂らに図った。神戸の出版社「ぐろりあ・そさえて」社長伊藤長蔵はジョセフ彦と同郷で彼の先代がヒコと親交があったことから全訳の出版を請け負い、明治文化研究会編集、高市慶雄校訂で昭和7年に上梓された。いわば土方の『開国之滴』と藤島の訳稿との合本の体裁なのであるが、『開国之滴』が原書から省略してしまった部分を高市が補充している。
 
『Narrative』の邦訳は別に平凡社東洋文庫中川努・山口修訳『アメリカ彦蔵自伝』上下巻(昭和39年)としても出ている。この東洋文庫版の方が世間的には流布しているし、統一された訳業なのでおそらくテキストとしてはしっかりしていると思う。
 
しかし、私は声を大きくして言うが、もしアメリカ彦蔵の自伝を書架に納めたいという人がいるなら、ぐろりあ・そさえて社版のこの『開国逸史 アメリカ彦蔵自叙伝』を絶対にお勧めする。古書をぜひ入手して欲しい。実はこの本は復刻版が平成10年にミュージアム図書から出ているが、その復刻版でもダメです。昭和7年のぐろりあ・そさえて社版がマストです。なぜならこの本は図版が豊富でとても素晴らしいからです。33点に及ぶ図版の大部分はヒコの孫の本間英太郎所蔵の原物を撮影して版にしており、原書『Narrative』に収めるものより鮮明なものになっている。
 
慶応3年長崎でヒコが伊藤俊輔から直接に貰い受けた伊藤や木戸孝允の写真も見ることができるのだ。これらはお馴染みの肖像ではあるが、図版は鮮明で木戸孝允の写真には指紋の痕のようなものが確認できる。木戸の指紋かもしれない!(いや、ヒコの指紋、撮影した上野彦馬の指紋かもしれないけれど)
いやはや、とにかく、手にとって欲しい一冊なのです。

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