幕末 本と写真

蔵書紹介系 幕末維新探究ブログ

岩瀬忠震に関する本

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岩瀬忠震には中公新書松岡英夫岩瀬忠震』(昭和56年)の他に単書のしっかりした伝記が編まれていない。白鬚神社にある岩瀬鷗處君之墓碑は岩瀬の顕彰碑になっているが、開国の恩人にして幕臣中屈指の才子に相応しい紙碑(伝記本)が新たに編まれることを期待したい。
 
今回のこのウェブログでは、古い本の中から岩瀬の事歴に有益なものを三点ほど紹介してみる。
 
川崎紫山『幕末三俊』(春陽堂、明治31年)
矢部定謙川路聖謨と共に幕末三俊の中の一人として篇を成したもの。岩瀬の初めての詳しい伝記であるとともに、「余、曾て栗本匏庵及び向山黄村諸老を訪ひ、鷗處の人と為りを聴き、また鷗處生前の親友たる永井介堂の嗣岩之丞君より、鷗處と介堂と唱酬の詩歌を得、又幕末の旧記を参稽し、僅に此篇を成す」という内容だけあり資料価値が高い。
 
 
京口元吉「岩瀬肥後守忠震とその手記」(『史観』第62冊、早稲田大学史学会、昭和36年
岩瀬の家臣で「甚愛の親臣」といわれた白野夏雲(今泉耕作)の後裔に伝わった岩瀬の日記、詩稿などが早稲田大学国史研究会に寄贈されたことから、それらを援用して岩瀬の事歴を紹介した論文。白野家からの寄贈の条件が岩瀬の顕彰を行ういうことであったため、その受領の約束を果たすために編まれた論文である。しかしどうせ約束を果たすのなら論文にとどまらないで寄贈史料全部の翻刻がなされるべきだったと思うのだが…。
早大が受贈した岩瀬の遺品は地図、色紙、短冊のほかに「丁巳西征轎中日乗」二冊、「丁巳東遷行程日乗」一冊、「戊午西上日記」一冊、「詩稿手控」二冊の手記類であった。手記類はいずれも備忘追想のため文言は詳細におよんでおらず、忠震の事歴に深く新しいものを加えることができなかったという。しかし、筆跡が見事で文章が簡潔暢達、詩情が裕かであり、挿絵スケッチが精緻である点において岩瀬の詩文書画に秀でていること知らしめる史料だという。今からでもいいからそれらは深く紹介がされて欲しい。
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森篤男『横浜開港の恩人 岩瀬忠震』(横浜歴史研究普及会、昭和55年)

 横浜郷土研究会の副会長だった森篤男による伝記。薄冊のものではあるが、岩瀬を概観するにはコンパクトに良くまとまっている。